着物の格子とタータンチェック

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着物の柄は実に多彩だけれど、伝統模様というより定番と呼びたいものがある。
ここでは格子について。

 

チェックと格子

格子(チェック)は世界共通の模様で、服地の世界でも定番である。なかでも、数種類の糸を交差させることにより組み合わせのぶん色の数が増えるタータンチェックは、繰り返し人気が浮上する、波のある定番模様である。今年はその波がまたやってきたようで、タータン模様が目につく。

これまでで大きな波はバーバリーだろうか。高校生が皆バーバリーのマフラーを巻いていた。ブレザーの制服にはよく似合ったけれど、制服だから同じでも違和感がなかったのであって、それがあらゆるところに溢れると、ちょっと食傷気味となった。

タータンの魅力は、複数の色の糸が織りなす華やかさだろう。たとえば6色の色糸を縦と横に繰り返して使えば、織り出される色は21色となる。

計算式:{X(糸の色数)+1}×X/2=織りあがった色数

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タータンの定義は、ウールの綾織りであること、二色以上の色を使うこと、縦と横の糸の色と数が同じこと。このルールがあるおかげで、一発でタータンとわかる。

スコットランドがオリジナルのタータンチェックは、そもそも氏族によって色や組み合わせが決められていた。日本の家紋とは違って、本家と分家でも色模様が異なるという。一目でどこの氏族かわかるというのは、エンブレムや旗印だけより、戦場では役に立ったのだろう。

その後さまざまなタータンが生まれ、名前をつけられ、分類されている。今では「スコットランド・タータン登記所」に申請し、上記の三点の条件を満たし、オリジナリティが認められれば、独自の名前で登録できるという。

参考:タータンチェックの種類と魅力的な文化・歴史|スコットランド旅行記01

 

正方形と長方形

着物の格子もタータンチェックだよなあ、とひそかに思っていたのだが、残念ながら登録はできない。ウールの着物もあるけれどたいてい平織だし、二色以上の糸を使うという条件はクリアできても、ひとつだけクリアできないのが、「縦と横の糸の色と数が同じ」という一点ではないかと思う。手持ちの着物の格子柄を見ると、みな縦と横の糸の色と数が違うのである。

たとえば黒、黄、緑、赤の4色を縦と横にシンプルに繰り返した大島紬がある(写真下)。派手な色目で大島特有の光沢もあり、かなりインパクトのある格子である。ただし、色糸の重なりで色に渋さが生まれ、個性と落ち着きが共存している。着物地といわれなければわからないモダンさもある。この格子、縦と横の色の数は同じだけれど、糸の数は異なる。なので格子が長方形になっている。

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もう一枚の紺地の大島もやはり4色の色を使った格子で、こちらもとてもモダンである。が、やはり縦と横の糸の数が異なるため、格子は長方形である。

正方形の格子もないことはない。江戸の役者名からきた市松模様というのがある。黒と白の市松などきっぱりとしていて、気こなしによってはとても粋である。けれどもこの市松も、着物になると(どうかすると)縦長や横長の長方形のくりかえしになっていたりする。日本人は正方形より長方形が好みなのだろうか。

 

リズム

タータンを見ると、四角形の端正な繰り返しのリズムが目に心地よい。基調となる色が規則正しく四角を繰り返し、安定感、安心感がある。色の組み合わせで一発で氏族やブランドが分かるのも、すごいことである。

一発でわかるというのはそれだけ個性が強いということだけれど、それだけ規範が固定的に強いと、個性的だけれど平凡ということにもなったりする(バーバリーしかり)。そうなると端正な繰り返しは単調で退屈なくりかえしになり、リズムの強さの中に着る者の個が埋没してしまうようなことにもなる。

着物の格子も、一定のパターンに従って色糸が繰り返されているわけで、そこにリズムが生まれるのは同じだ。タータンと異なるのは、縦と横で色糸の繰り返しパターンが同じではない、ということだろう。

たとえば上記写真の紺の格子の大島の赤糸を見ると、縦と横で糸の本数・通し方が違う。色の並べ方の順番も、縦と横で同じではない。糸の数だけで正方形が長方形になっているだけでなく、色の並べ方でも方形の繰り返しのリズムは崩されている。

安定感がない、落ち着かない、というわけでは決してない。けれども、上から下まで同じ模様が、だーっと面積広く身の上を占有する着物には、端正で規則性の高いリズムより、おおらかでどこかに「破」のあるリズムのほうがなじむのかもしれない。

格子の着物から洋服へのリメイクは違和感なく行っているが、このたびタータンを眺めながら、タータンチェックは着物になるだろうかと想像してみた。帯だったらイケるかもしれない。でも着物は…、ちょっと難しそうである。市松もあるし、ウールの定番のような二色の格子もほとんどタータンなのに、なぜか伝統的な由緒正しきタータンは、着物に仕立てても着物になってくれないような気がする。

 

縦の線

ビビッドな赤の綿格子から、ラップスカートとボレロ、ミニトートを作った。

この格子を眺めていて気付いたのは、格子に通る縦の線である。

経糸は赤、黒、茶鼠(グレイがかったカーキ色)、黄、の四色であるが、横糸は赤と黒だけである。縦にだけ通る残りの二色のうち目に強く飛び込んでくるのは、糸のように細く黒に沿っている黄色ではなく、リボンのようにすっと伸びる茶鼠である。

横糸で格子をつくる黒の線も細く、従って地の赤に印象的なのは茶鼠の縦線で、格子というより、縞(ボーダー)の要素が強まっているのだ。

そういえば…、と他の格子の着物(地)もあらためて眺めてみた。藍に赤と黄色と白、ブルーと5色が使われている綿着物(写真手前)では、横糸には藍の地色の他は黄色しか使われていない。ここでは黄色と赤の線が縦にボーダーになっている。茜色と黒と白のウールの着物も同様で、黒は縦にしか使われていない。

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格子の形の長方形も縦長だし、着物では縦の線が強く意識されていることがわかる。これもまた、袖も長く、帯から下も足先までひと息に長い、着物という形態と関係があるのだろうか。あるいは、長方形と同じように日本人の「好み」がそこにあるのか。

縦に線が通っている着物地は、リメイクで縦に使うか横に使うかで表情が異なる。それがとても面白いのだが、実は縦に通るラインは、格子や縞だけではなく幾何学模様や草花模様にもはっきりとある。

九鬼周造は、縦縞が「粋」であるのは重力にも関係があると書いているけれど(「粋の構造」)、上から下への(あるいは斜め下への)視線の流れが常に意識されているのが、日本の着物なのだろう。「和」からなるべく離れて自由にリメイクしたい私は、だから着物地を横に使うのが好きなのかもしれない。

 

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